【読書記録】さよならクリームソーダ(額賀澪).....デビュー作同様、実力の片鱗は感じることはできるが.....

リアルがバタバタしていて久しぶりのエントリになってしまった。 書かなきゃいけない読書記録が4本も溜まってしまったけど、ぼちぼち追いついていこうと思う (´・ω・`)


さよならクリームソーダ

さよならクリームソーダ

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美大入学を機に上京した寺脇友親。同じアパートに住む才能豊かなイケメン先輩・柚木若菜を知るうちに、自分が抱える息苦しさの正体にも気づいてゆく。
松本清張賞作家25歳が描くリアルな涙。美大生たちの日々に満ちる輝きと不安が胸に刺さる --- 傑作青春小説。
さよならクリームソーダ | 額賀 澪 | 本 | Amazon.co.jp より

額賀澪は松本清張賞受賞作の「屋上のウインドノーツ」以来2冊目。

tamu2822.hatenablog.com

上記エントリで

感情や言葉を上手に切り抜いて、それをわかり易く、面白く、時に感動的に配して表現する技は、若さを感じさせない手練れ感と安定感があって、生きのいい新人が出てきたな......というのが第一印象。

と書いているが、今回も同様に、その実力の片鱗は十分に感じることが出来る。

反面、いまだデビュー作の延長線上に留まっており、まだまだ「潜在的な伸び代に期待」という表現を使わざるを得ない。

何が物足りないのか考えてみたのだが、よく言うところの「背景の隠れた物語」、即ち明示的に書かれていない、登場人物の歴史とかその背景の造り込みが弱いのでは?、と感じるところがいくつか見受けられた。

具体的には以下のとおり。

  • それぞれの登場人物はそれなりに魅力的に描かれているのだが、やや人物造形が甘い、もしくは浅い。(例えばダブル主人公のそれぞれの義姉妹である「涼」と「恭子」。 特に重要なサブキャラでありながら、書かれていない部分でのキャラ付けが弱いので、物語に深みが出てこない)
  • 同様に重要なな小説内の「事件」の背景が不明瞭もしくはピント外れ。 たとえば「友親と涼の事件」「三宅先生の作品の件」「明石先輩の事件」など、それぞれ当事者がどういう背景のもとにどんな思いでそう至ったのか、それを明示的に書く必要はないにせよ、作者が十分に煮詰めた想定の上に書いているとは思えない。(というか、読んでてそれが納得できる伝わり方をしていない)
  • そもそも主人公でなく、既に死んでしまった人間が最も印象強い登場人物になっているのもどうかと思う。 その時点でやはり両主人公の人物造形も弱いと言わざるを得ない。

あと、「屋上のウインドノーツ」でも思ったことだが、恋愛とか性愛を書くのに苦手意識があるように思える。(実際下手だと思うしw)

まだ若い作者なので、人生経験もこれから積むのだろうが、プロの作家が「経験がないので書けない」ではダメなので、そこは逃げずに正面から取り組んで欲しい。

やや厳し目のエントリになってしまったが、期待している若手作家なので、頑張って欲しいと思う。