【読書記録】虫たちの家(原田ひ香)......核心部分でやや書き込みが弱いところもあるが、新境地を拓く意欲作

虫たちの家

虫たちの家

  Kindle版 ⇒ 虫たちの家

傷ついて、さらされて、私は名もなき虫となる。ここに生きる覚悟でーー
島にある「虫たちの家」は、ネット社会で傷つけられた女性たちが名を捨てひっそりと共同生活をしている。古参のテントウムシは、美しく奔放なアゲハが村の青年たちに近づく企みを知り不安になる。『母親ウエスタン』で注目の作家が描く書下ろし長編。
虫たちの家 | 原田 ひ香 | 本 | Amazon.co.jp より

上の引用にある「ネット社会で傷つけられた女性たち」は、「ケ●●バーガー事件」とか「三鷹ストーカー事件のリベンジポルノ」とかがモデルになっていて、また典型的なサークルクラッシャーが出てきたりで、作者のネットウォッチャー振りが垣間見えてニヤリとした。

それはともかく、本作はシリアスなミステリー調の作品で、今までの原田ひ香にはあまりなかった作風であり、緊張感を保ちながらグングンと読み進められる、手応えのあるなかなかの秀作である。

物語は主人公の視点の他に、もう一つ主人公の幼少期を思わせる「謎」の視点の二つから進められる。

その「謎」が明かされるくだりがお話のクライマックスなのだが、それを既知のものとして全体を俯瞰し直すと、「謎」であった部分の動機やその人物のキャラ付けがやや弱い。

「その人は病んでしまったのだ。」......残念ながら、それは事実の説明でしかない。

そこにある狂気や心の闇を(手法は様々あれど)描き上げるのが小説の一つの醍醐味である。
本作の核心となる部分であり、もう少し深く描いていれば、氏を代表する傑作になった可能性を感じるだけに残念である。

しかし作者が新境地に果敢に挑戦した姿勢は買うし、その結果としての作品についても、全体としては十分に及第点以上の面白い小説だといえる。

前も書いたが注目している作家の一人なので、次作にも大いに期待している。

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