ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)

ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)

ゆっくりさよならをとなえる (新潮文庫)


川上弘美って、今、マイブームです。
私が好きな女性作家*1は「川上弘美」「江國香織」「山田詠美*2の3人なのですが、例えば、仮にサシで飲むとしたら、一番屈託無く、気軽に、そして楽しくお酒を楽しめるのは「川上弘美」なんじゃないかな....って。
でも更に、もしかしたらやばいこといいことになるかもしれない可能性が高そうなのも、意外と「川上弘美」だったりして(笑*3
そんな、背筋のシャンとした、媚びのない、でもチョットだらしない感じのする、川上弘美の「色気」が好きです。
勿論これは今日・今現在の話しで、明日は違う作家が好き!....って言っているかもしれません。 要は女性にだらしない 作家の好みはその日の気分で変わる....ってだけの事ですが(笑

なにしろ小説を書くときには、なるべく直截ちょくせつな説明とというものをしたくない。「悲しかったです」と書くかわりに、「空がとても青くて、ジェット機も飛んでいて、私はバナナパフェが食べたかった」などと書いてしまうのが、小説である(たぶん)。*4

実はこれを読んでエライ反省しました。 なにを反省したかっていうと、前回「米原万里」の「真昼の星空」を好き放題書いたことについてである。
氏の本籍は「小説家」ではなく「通訳」です。 人の話を正確かつ断定的に表現するのが、彼女の、所謂「良い仕事」なのだから、ある程度ああいう文章になってしまうのはしょうがない事なのかもしれない。*5 *6
でも「真昼の星空」、「面白くなかった」って感想は全然変わりません(笑
話は本題(「ゆっくりさよならをとなえる」について)にもどりますが、一番のオキニは「ベタベタ」なる一節。 電車内でイチャイチャするカップルの顛末なのだが、こういう「ばカップル」に対する氏の愛情と、ステレオタイプな偏見に対する痛快なエッセイになってる。 是非一読頂きたい。*7

冬の夜にすること。
ハンカチにアイロンをかける。
天津甘栗をむく。
こたつの上のみかんを眺める。
手の爪を切る。
(中略)
折り紙でいんこを折る(黄色と水色)。
昔恋人からもらった手紙(とってあるやつ)を読み返す。
カフェオレをつくる。カフェオレを飲む。
(中略)
今まででいちばんうれしかったことはなんだったかを決める(ずいぶん迷う)。
今まででいちばんかなしかったことはなんだったかを決める(すぐに決まる)。
今まで言ったさよならの中でいちばんしみじみしたさよならはどのさよならだったかを決める。(決まったら心の中でゆっくりさよならをとなえる)。

最後の一節である。
読むたびに、いつも、泣きたくなる。

*1:おぢさんの鑑賞に耐えうる恋愛小説を書ける女性作家

*2:江國香織山田詠美についても近々書くと思います

*3:あくまで作風の話しであるが(笑

*4:文庫本:P76〜P77

*5:国際会議における「バナナパフェ」的同時通訳も聞いてみたい気もするが(爆

*6:因みにこれは「読売新聞」のコラムらしい。対する「ゆっくりさよならをとなえる」の過半はあの朝からエロ小説を連載する「日本経済新聞」のコラムですから(笑

*7:文庫本:P55〜P57