【読書記録】小松とうさちゃん(絲山秋子)......肩の力の抜けた新境地を拓く佳作

小松とうさちゃん

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--「小松さん、なんかいいことあった?」
52歳の非常勤講師小松の恋と、
彼を見守るネトゲに夢中の年下敏腕サラリーマン宇佐美の憂鬱

52歳の非常勤講師小松は、新潟に向かう新幹線で知り合った同い年の女性みどりが気になっているが、恋愛と無縁に生きてきた彼は、この先どう詰めればいいか分からない。一方、みどりは自身の仕事を小松に打ち明けるかべきか悩んでいた。彼女は入院患者に有料で訪問サービスをする「見舞い屋」だったのだ。小松は年下の呑み友だち宇佐美に見守られ、緩やかに彼女との距離を縮めていくのだか、そこに「見舞い屋」を仕切るいかがわしい男・八重樫が現れて……絲山秋子が贈る、小さな奇蹟の物語。
小松とうさちゃん | 絲山秋子 | 本 | Amazon.co.jp

絲山秋子にしては珍しく洒脱な味わいの、軽妙な作品。

導入部から物語の視点(語り手)がこまめに変わり、最初(登場人物が確定するまでの間)少し戸惑うのだが、それさえも小気味よいリズムに感じられ、期待感をもってページを捲る手がとまらなくなってくる。

この小説のいちばんの魅力は、主要登場人物である小松、みどり、宇佐美の3人のキャラがそれぞれに素敵であるところだと思うのだが、その中でも特に宇佐美の存在がこの物語の彩を豊かなものにしている。

宇佐美は40代にしてネトゲにはまり、また家庭はバラバラでかつ適当に外で遊んでいる、かなりいい加減な感じの男であるが、実は仕事はかなりデキル風である。

本社から出張で大阪支店で会議に出席して業績不振の営業所を叱責するくらいだから、支店長と同格か格上の営業本部長くらいのポジションなののだろう。

またネトゲで配下に冷静かつ的確な指示を下しているのをみても、デキル感は滲み出ている。

そんな彼が、ぶつぶつ言いながらも友達の小松のために相談に乗り、また最後みどりの窮地を救う。

またエンディングのオチも彼らしくて微笑ましい。

そんな愛すべき「有能ないい人」.......絲山作品では今まであまりいなかったキャラだと思うが、彼のおかげでシリーズ化をファンとして強く望むくらいに素敵な小説になったのは間違いない。

離陸」とはまた違った意味で新境地を拓く作品といえるだろうが、わたしはこっちの方が好きである。


ただ一点だけ気になったことがある

物語の後半、みどりが宇佐美の LINE をみつけて情報提供したことが明かされるのだが、小松から得た「いつも話してる宇佐見君って友達」って言う情報でだけで、宇佐美の LINE にたどり着けることができるのだろうか?

LINE には友達の友達をサジェストする機能はないので LINE 単独ではおそらく不可能。

可能性として有り得るのは、3人とも Facebook をやっていて、小松とみどりが友達で、みどりのアカウントに共通の友達1名として宇佐美のアカウントがサジェストされて、プロフィール欄見たら LINE_ID が掲載されていた......ってところだろうか?

下らない突っ込みで恐縮だがちょっと気になったので.......


言いたかったことが途中に埋もれてしまったので、もう一度まとめる。

キャラ設定が素晴らしかったので、肩の力を抜いて書いたら、そのキャラ達が自由に動き出し、結果として新境地を拓いてしまった......と言ったら作者に失礼だろうか。

わたしはこの作品、大好きである。