【読書記録】朝が来る(辻村深月)

朝が来る

朝が来る

キンドル版 ⇒ 朝が来る (文春e-book)

不妊治療と特別養子縁組を通じて、親子関係(と夫婦関係)をテーマに描き上げた、辻村深月の意欲作。

「書くことに意義があると感じた」テーマを、チャレンジングに書いたことは大いに評価できるし、いま大いにアブラのっている若手作家だけに、期待を裏切らない作品に仕上がっている。

ただ彼女の実力の割にイマイチ物足りなさを感じるのは、いかんせん若さと経験不足によるものなのだろうか。

例えば佐都子と朝斗、ひかりと朝斗という両親子の関係性に比べ、もう一つ重要な筈であるひかりとその母親との関係性にリアルさが感じられない点。

ひかりの母親は名前さえ与えられず、ステレオタイプな毒親としてしか描かれるのみである。

そこに厚みを与えることにより、更にひかりの人物像にも深み出てくる筈なのだが、年齢的にその視点に思い至ったり、そこを慮ったりすることは難しいのかもしれない。

また感動的なエンディングについても、例えば映像化された映画などであればこれもまた効果的なのだろうが、小説としては(彼女の作風を考えると)エピローグを加えるなどしてもう少し丁寧に書いた方が、完成度(というか納得感)が高まるだろう。

個人的にとても期待している作家なので、少し辛口になってしまったが、次作がまた楽しみでもある。