【読書記録】帰蝶(諸田玲子)

帰蝶(きちょう)

帰蝶(きちょう)

斎藤道三の娘で、美濃から嫁いできたことから濃姫ともよばれる織田信長の正妻、帰蝶。

戦国時代の女性としてつとに有名な存在であるが、残された記録は極めて少なく、その生涯については早世説、早期離縁説を含め諸説がある。

したがってこの小説の主人公、帰蝶に関する記述は大半はフィクションということになる。

しかしながら歴史小説は、「史実と史実の隙間に作家が創り出した物語」を楽しむものであると私は思っている。

そういった意味において、諸田玲子が大胆に創り出したこの物語はなかなか興味深い。

彼女は物語の与条件として以下の仮説を立てて(もしくは諸説のうちの一つを選択して)いる。

  • 帰蝶はとある理由により表に出なくなるが、裏で織田家の奥を仕切り、本能寺の変以降も生き続ける。
  • 信長の嫡男信忠の生母は帰蝶の異母妹である。(信忠の母は一般的には生駒吉乃とされているが、美濃に縁のある女性であったとの説もある)
  • 禁裏御蔵職をあずかる豪商で、多くの戦国大名との交友があったとされる立入宗継が、帰蝶と接点があり、お互い密かに惹かれ合う存在であった。

以上、あくまで物語の与条件であり、ネタバレではない。

あとは読んでのお楽しみとさせて頂くが、帰蝶を中心とした織田家における美濃一族の各人各様の生き様は、なかなか読み応えがある。

ただ惜しむらくは、立入宗継とのラブロマンスめいたあれこれが、却って帰蝶の魅力的な人物像をスポイルしているような気がしてならない。

そこら辺をすべて取っ払った方が、諸田氏の筆力をもってすれば、骨太のもっと良い小説なったにちがいない。

ただこういうのが好きな読者も一定数以上いるだろうから、エンタテイメント小説的には仕方ないことなのだろう。

個人的には少々残念である。