【面白かった本】笹の舟で海をわたる(角田光代)

笹の舟で海をわたる

笹の舟で海をわたる

角田光代って、その作風が余り好きではなかったのだが、これはなかなか読み応えがあった。

主人公・佐織のと、集団疎開時代に出会い後に義妹となる風美子との愛憎を中心に、それぞれの配偶者との出会い・暮らし・死別、佐織のままならない子育......などを通じ、戦中から平成までの時代を、時々の風俗や出来事を交えながら淡々と描き上げた大河小説。

昭和戦後史的な長編という意味では近年の橋本治の小説に近いものもあるが、こちらのほうがややウェットかつドラマティックに物語が進む。

それは戦後の昭和という時代のいくつかの象徴性を、それぞれの登場人物に、作者が意識的にもたせていることに起因するものかもしれない。

著者インタビュー(著者インタビュー:最新長編小説『笹の舟で海をわたる』出版 角田光代さんに聞く - 毎日新聞)を読むと、特に主人公・佐織の人物造形に苦労したようだが、そこを克服して書ききったことにより、この小説に静かな迫力を与えている。

また一冊、いい本に出会えた。