面白かった本『おしかくさま』(谷川直子)

おしかくさま

おしかくさま


この小説を一言で言い表すとすれば、神様とお金をめぐるドタバタ純文学.....という感じだろうか。
40歳の離婚を機にウツを患った、売れない雑文ライターの主人公ミナミ(49)が、そのドタバタを通じて自分を取り戻していく、なかなか気持ちの良い小説である。
本作にて歴代女性最年長で文藝賞を受賞した谷川直子氏も、40歳の時に高橋源一郎氏と離婚、それをきっかけとしてウツを患われたそうで、この主人公にご自身がかなり色濃く投影されているだろうことは、想像に難くない。
終盤やや詰めが甘く、ただのドタバタ劇で終わりかけたところを、そんな主人公に対する作者の思い(愛情)のおかげで、良い読後感が残るのだろう。


ところで、この小説の特徴として、頻繁に(パラグラフ毎に)クルクルと一人称が変わるごとがあげられる。
それが物語に変化とリズムを与えていて、とても良いと思うのだが、それを否定的に、わかり辛い、読み辛いと捉えている人が、意外と多いのは残念である。
単に小説を読み慣れているかどうかの差なのかもしれないが、一点だけ惜しい点がある。
それは小説中、最初に一人称が変わる箇所が、改ページと重なってしまい(P7とP8の間)、パラグラフが変わったのかどうかがとても分かり辛く、一瞬???......と、なってしまった。
どうもこれが第一印象を悪くしているようで、こんな事で小説の評判落ちるのは勿体ないことである。
編集がもう少し気を遣ってあげて欲しかった部分である。
★★★★☆