【読書記録】早春賦(山口恵以子)......後半の視点チェンジは悪手では?

早春賦

早春賦

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明治維新後、金貸業から事業を拡大させた大堂家の娘・菊乃は、身分違いの伯爵家に嫁ぐ。そこで待ち構えていたのは、歌舞伎より能を、世界情勢より貴顕社会の噂話を好み、欲望と快楽に耽る一家だった。生家との違いに驚き、爛れた伯爵家の闇の深さを知った菊乃は、持ち前の負けん気が顔を出すのを感じていた…。女性の権利が認められなかった激動の明治時代、旧弊な価値観はびこる格式張った家に、菊乃が新時代の風を巻き起こす!
早春賦 | 山口 恵以子 | 本 | Amazon.co.jp より

社員食堂のおばちゃん作家として有名な山口恵以子氏の作品はこれが初めて。

好きなジャンルと少し離れた作品が多かったので、これまで読むきっかけがなかった。

日経新聞の夕刊のエッセイ欄(プロムナード)の火曜日を今年の1月から半年間担当していたものを読み、この作家の書く小説はきっと面白い......と思い手にしたのが本作である。

結論として「一気読み」させるだけの勢いと筆力を感じさせる、かなりの佳作であった。

特に前半における主人公・菊乃の魅力的なキャラ設定と物語展開の痛快さは流石であると感じた。

ただ後半はその痛快さが影を潜め、反対に昼ドラ的なドロドロ・バタバタした展開になるのが少々惜しい。

基本的には菊乃の一代記にもかかわらず、後半は娘の早紀子(正確には亡くなった夫が菊乃の右腕的な使用人に産ませた子......そんな鬼畜的な話が盛りだくさんw)視点の物語になっているのも、小説的勢いが失われてしまった一因なのだろう。

作者のインタビュー記事によれば、むかし漫画家を目指していた頃、娘・早紀子を主人公にした物語を書いていたとのことなので、なにか拘りがあったのかもしれないが、結果的には悪手だったと思う。

とは言え冒頭に書いたとおり、十分に面白い作品ではあったので、今後他の作品も読んでみたいと思う。