【読書記録】虚人の星(島田雅彦)

細々とではあるがこのブログも始めて10年が経ち、かれこれ2000以上の記事を書いてきた。

その2000以上の記事のなかで、政治関連の話題に触れたものはひとつもない。

このブログを始めるもっと前に、地域コミュニティーのメーリングリストを主催していたことがある(たぶん5年以上は続いた)のだが、その際も「政治と宗教」の話題は厳禁というルールを、頑なに守り続けた。

この手の話題は落としどころがないので、フレーミング(今風に言うと炎上?)が起こると、収拾がつかなくなるので面倒臭い......というのが、唯一の理由である。

だが今回ついに、内容を事前に確認せずにこの小説を手に取ってしまったがために、前例を違えざるを得なくなってしまった。

虚人の星

虚人の星

親子2代にわたり中国のスパイとなった外務官僚を主人公とした、いかにも島田雅彦らしい小説だ。

軽い話を小難しく書くのが彼の作風だが、本作も中国の脅威、米国の立ち位置などリアリティ溢れる設定をベースとしつつも、小説的面白さに富んだ作品となっている。

結局、主人公は日本国を裏切るのか、はたまた国を救うのかがこの作品の読みどころになるのだが、ラストで一気に本作の政治的主張が展開されることになる。


(ここからややネタバレあり)
本作の主張は、「右」とか「左」といった政治的イデオロギーに主眼は置かれず、あくまで「護憲」「不戦」「平和」にある。

昨今「護憲」を論じるとサヨク呼ばわりされる風潮があるが、全くをもってナンセンスである。

本作中でも触れているが、天皇陛下も、そのお言葉の中で「護憲」「平和」に言及されることが多い。

あまり多くを語ることは避けるが、私も憲法改正は当面不要であると考えるし、戦争は絶対的に避けなければならないと考えている。

憲法前文は実に美しい名文であり、力強く「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を謳いあげている。
もちろんそれは理想論なのかもしれないが、それを目指すことは絶対的に止めてはいけないと思う。

あと、少なくとも小説家やミュージシャンは、いつでも理想を掲げ主張し続けてていて欲しいと思う。

体制に迎合する言論人やアーチストなんて糞食らえだ!


そんな主張を含んだ作品ではあるが、小説として面白いのは間違いないし、エピローグもなかなか洒落ていて好きだ。
島田雅彦、渾身の一作だと思う。