【読書記録】波止場にて(野中柊)

波止場にて

波止場にて

関東大震災の直後に生まれ、激動の昭和を生き抜いた慧子(けいこ)と、その3ヶ月後に生まれた腹違いの妹の蒼(あおい)の、横浜を舞台とした大河ロマン。

富裕層のお嬢様として思慮深くバランスの取れた慧子と自由奔放な蒼、二人の性格は一見正反対のようでいてよく似ている。
それはかの大戦を挟んでかけがえのない人たちを幾人も失いながらも、日々を一生懸命、強く逞しく、そして目一杯楽しみながら、共に生き抜いた生き様であり、そんな彼女たちはこの上なく素敵だ。

翻って自分はいま、自分は「日々を一生懸命、強く逞しく、そして目一杯楽しみながら」生きているのだろうか?.....なんて自問自答をしてしまうのも、これが3・11に触発されて書かれた小説だからだろう。
(一生懸命働いて、そして目一杯遊ぶ......って、作者や私の世代としては、少なからずバブルへの懐古があるにしてもw)

序章と最終章は、現代、84歳の慧子の目を通した描写となるが、蒼の孫、曾孫たちとのやり取りを通じて、描かれなかった慧子の人生に思いを馳せると、静かな涙を誘う。

時々こういう素敵な小説に、思いがけず巡り会えるのが、読書の醍醐味だと再認識。
★★★★★