『泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)』読了

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)


実は買ってからアッという間に読み終わったのだが、色々と慌しくてレビュー書く余裕が無かった。
で、その間にも何度か読み返したので、やっと書いてみる。
この本「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」だったのだけど、「た」的にはその期待に充分応えくれたと思う。
お話は、江國が長編の中ではあまり書き込んでこなかった、結構「濃い」部分を切り取った恋愛短編小説集である。
お気に入りは次の2作品

「うんとお腹をすかせてきてね」

「食べる」という事のエロチックさを、江國が書くとこうも切なく表現できるのかと、チョットうなってしまった。
美しい文章だ。

「りんご追分」

「行き止まり」で身動き取れなくなった人の乾いた悲しみを、淡々と、そして最後は激しく表現した作品。
それにしても、酔っ払いのおじさんの生態がよく観察されている(笑



全編を通じて、作者があとがきで書いているとおり「それからも続いていく生活の果てしなさ」がキチンと「小説のうしろに」ひそんでいるところが、タダの甘い恋愛小説ではない、おじさんでも読める恋愛小説になっている所以だろう。