【読書記録】ママがやった(井上荒野)......登場人物のクズっぷり堪能する痛快な作品

ママがやった

ママがやった

  Kindle版 ⇒ ママがやった (文春e-book)

ママはいいわよべつに、刑務所に入ったって

小料理屋の女主人百々子七九歳と若い頃から女が切れない奇妙な魅力をもった七つ年下の夫。半世紀連れ添った男を何故妻は殺したのか。

ママがやった | 井上荒野 | 本 | Amazon.co.jp より

人間だれしも潜在的に「クズ」であり、また「クズ」なりきりたい願望をもっている。

しかしながら、社会生活を差障りなく送るために仕方なく、分別を持ったマトモな人間のフリをして暮らしているのだ。

......と書くと、一部界隈から「主語が大きい」と叱られるので、一旦は主語は「私は」に訂正しておく。


この8編からなる連作短編集の登場人物の殆どが「人間のクズ」であり、本作を一言で表すとしたら、その見事なまでのクズっぷりを堪能する作品である。

亭主を殺した母親がその亭主と所帯をもった経緯、定職もなく浮気を繰り返す亭主のいい加減さ、5回だったか6回だったか覚えていない長女(何が「五、六回」なのかは読んでのお楽しみ......わたしはこの題名に仰け反ったw)を始め、クズな人物のクズなエピソードのオンパレード。

最後はそのクズな家族が集まっての最高にクズな結末。

これを痛快と呼ばずになんと呼ぶのだろうか。まさに井上荒野の真骨頂である。


ところで、最近巷にあふれる「登場人物に共感できませんでした」といってその作品を「つまらない」と決めつける、所謂「共感厨」(←思い付きの造語w)は、読書の楽しみの半分を放棄しているのではないかと、かねがね思っていた。

しかしながら人生経験が豊富ではなく、挫折を知らず、未来が夢と希望に溢れている若者にっとっては、それも仕方ないのかと、最近は思うようになってきた。

全ての若者がそうではないにせよ、この作品も(予想どおり)そういう感想が多かったので、ふと思ってみた次第である。


いや待てよ......この作品を文句なしに面白いと感じている私は、実はクズに共感しているのかもしれない。

......と考え、本記事冒頭のテクストに戻る。

やはり読書は面白い。