【読書記録】霧 ウラル(桜木紫乃)......静かなエンタテイメント、桜木紫乃のベスト長編!

霧 ウラル

霧 ウラル

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国境の街・北海道根室。有力者の娘・珠生が恋に落ちたのは、北の海の汚れ仕事を牛耳る相羽組の組長だった。 
霧 ウラル | 桜木 紫乃 | 本 | Amazon.co.jp より

桜木紫乃直木賞受賞後長編第一作。

今回は思い切りエンタテイメントに寄せた作品で、作者曰く「姐さん」の世界を書いた.....とのことだが、実際仕上がったのは、ドンパチ・切った張ったのワイルドな世界ではなく、いかにも彼女らしい、オンナたちの情念を丁寧に描いた、静かなエンタテイメント小説であった。

こう言うと、直木賞受賞作家つかまえて失礼な話なのだが、「紫乃さん、上手くなったなぁ」というのが率直な感想。

今までの作品でやや見受けられたやや「強引」であったり、「独りよがり」的であった展開は影をひそめ、安心して純粋に文章を味わい、堪能することができるようになった。

意外と、そのレベルの作家はあまり多くない。

そして実在の都市を舞台にし、またある意味ストーリに「お約束」的な制約を受ける分野(?)にも拘らず、桜木紫乃にしか描けない世界を構築しているのは流石だ。

間違いなく彼女のベスト長編だと思う。

また、これは勝手な想像なのだが、シリーズものとして三部作にすると、本当の意味で彼女の代表作となる可能性を秘めているのではないだろうか。

たとえば第二部は政界入りを果たす地元有力者の御曹司に嫁いだ珠生の姉(長女)智鶴を主人公に、第三部は三女で実家を継いだ妹・早苗を主人公にして、三姉妹の生きざまをとおした根室の戦後史を描き上げる......想像しただけで上質な大河ドラマになりそうで期待に胸が膨らむ。

小学館さん、いかがでしょうか?