【読書記録】図書館で暮らしたい(辻村深月)......中二病全開の痛快なエッセイ

図書室で暮らしたい

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作家になる前から、作家になってから、夢中で追いかけてきた小説、漫画、アニメ、音楽、映画、美味しいもの…etc.すべてが詰まった、読むと元気になれるエッセイ集!

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初期のミステリーを中心に書いてた頃の辻村深月は、正直あまり好きでなかった。

このエッセイでも自ら書いているとおり、重度の中二病を自認する氏だが、その自負がミステリーという形式の中で、やや空回りしていると感じることが多かった。
(そういった思いもあって、実は直木賞受賞作の「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」は未読)


その後たまたま手に取った2013年6月の「島はぼくらと」が、瀬戸内海の島を舞台としたとても素敵な青春小説(ミステリー要素は殆どなし)で、私の中での評価が一変し、それ以来最もお気に入りの若手作家のひとりになっている。

それは恐らく、作品を重ねるごとにグングンと筆力があがったことに加え、自分の中の中二病との距離の取り方を、絶妙なバランスで(自覚的に)測って作品に反映させることができるようになったことによるものではないか、と私は考えている。

そういった意味で昨年のヒット作「ハケンアニメ!」は、かなり「そっち」に寄った作品でありながら、一般人(笑)でも素直に楽しめる作品になっている。

また安田成美主演でドラマ放映中の「朝が来る」も、今までの辻村ワールドとは一線を画す意欲作で、かなりの力作に仕上がっている。(過去記事ではやや難癖をつけてしまったがw)


で、今回のエッセイであるが、前半は日経夕刊(プロムナード)に半年間毎週掲載されたエッセイで、これは読者層を考慮したのか大人しめの一般的なエッセイとなっている。(連載時も読んでいたので、余計そう思えるのかもしれないが)

後半はのエッセイは、自分の好きなもの、自分の作品、そして自分について、中二病全開で縦横無尽に語り倒してるのだが、これが実に痛快で面白い(笑)

特に「輪るピングドラム」についてと「筋肉少女帯」について語った作品は、いかにもな愛が溢れていてとても好きだ。(ただネットに上がっている多くのファンの感想等を拾い読んでも、そこが好きだという話が全く無いので、私の感性はおかしいのかもしれないw)

エッセイは、同じトーンの短文が続くことが多いので、しばしば途中で飽きてしまうのだが、本作は最後まで楽しく一気に読むことが出来た。

辻村深月がますます目の離せない作家になってきた。

【読書記録】ナイルパーチの女子会(柚木麻子)

ナイルパーチの女子会

ナイルパーチの女子会

  Kindle版 ⇒ ナイルパーチの女子会 (文春e-book)

ブログがきっかけで偶然出会った大手商社につとめる栄利子と専業主婦の翔子。互いによい友達になれそうと思ったふたりだったが、あることが原因でその関係は思いもよらぬ方向に―。女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。

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第28回山本周五郎賞受賞作であり、直木賞候補にもなった作品。

柚木麻子の作品は初めてだが、話題となっただけありなかなか読み応えのある小説となっている。

因みにナイルパーチとはスズキ目アカメ科に属する大型の淡水魚であり、商業上重要な食用魚。生態系への影響は大きいと言われ国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されている。(ナイルパーチ - Wikipedia

かなりカワイイ系の表紙イラストの上部に、薄っすらと描かれているのがナイルパーチであり、主人公のひとり、栄利子のメタファーとして描かれている。

栄利子について、読後頭に浮かんだキーワードが「パートナーのいない共依存者」。

潜在的にはそれは栄利子の父親なのだろうが、自覚的にそれを否定するがゆえに歪んだ攻撃性が暴走する。

その辺りの「病み方」「狂気」はとても上手く表現されており、本作のいちばんの読みどころとなっている。

ただ、その恐怖がやや漫画チックになってしまい、いまいちリアリティが失われているところがやや残念

特に以下の3点、アラ探しのようで恐縮だが気になったので記させていただく。

  • 主人公の二人に次ぐ主要キャラである真織のキャラ付けが、あまりにも漫画的......極めつけは「芋けんぴ」w
  • 大手町の業界最王手の総合商社が舞台だが、職場のセキュリティが色々とふた昔前でありえないレベル。
  • これだけ病んだ人間が簡単に自己再生できるとは思えない。 終盤、安易に希望を語りすぎ。

ここら辺りがきちんと破綻なく描けると、漫画チックでないリアルな「狂気」とか「怖さ」が表現できるのではないだろうか。

おっさんが偉そうに書いてほんと申し訳ないのだが、期待の裏返しだと思って許して頂ければ幸いである。

【読者記録】ご機嫌な彼女たち(石井睦美)

ご機嫌な彼女たち

ご機嫌な彼女たち

  Kindle版 ⇒ ご機嫌な彼女たち (角川書店単行本)

離婚に傷つき娘と暮らす寧、年下の恋人のいる万起子、娘が口を利かない美香。夫を癌で亡くした崇子の料理屋には、今日もバツイチ女性が集まる。結婚、出産、離婚、自立、人生の転機に必要なものを探りながら--

ご機嫌な彼女たち:Amazon.co.jp:本

20代の美香、40代の万起子と寧、そして50代の崇子の4人のシングル・ワーキングマザーたちの、お仕事・子育て・恋愛小説。

形式的には短編連作集だが、内容的には長編小説に近い内容で、メインは家庭環境、経済事情、シングルマザーとなった経緯など全てにおいて他の3人に比べ幸薄い美香の、自立と自身の幸せを確立するまでのものがたり。

それぞれに問題や悩みを抱えながらも、前向きに逞しく進んでいく彼女たちの友情を、作者はそつなく、ときにささやかな感動をも交えながら、ストレートに描き上げた。。

日経の書評欄で北上次郎が褒めていたが、いかにも氏の好きそうな小説である。
style.nikkei.com

こういう屈託のない素敵な小説に、素直な好感をもてる自分に、少しホッとしたりしている今日この頃でもある(笑)

【読書記録】自画像(朝比奈あすか)......ミステリー仕立てでなければ傑作になったかも (´・ω・`)

自画像

自画像

  キンドル版 ⇒ 自画像

男子による女子ランキングなど、ヒエラルキーが形成された中学の教室で、ひとり孤高を保つ少女がいた。
少女は容赦ない方法で、担任教師の行いを告発し、学校から追放する。それは、ある長い闘いの序章だった――。
緻密な心理描写、胸を抉る衝撃の真実、祈りにも似た希望が立ち上るラスト。圧倒的な熱量を孕んだ傑作長編!

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おそらくは綿密な取材と、そして著者の筆力により、普通の人間ならあまり垣間見たくない世界を、容赦ないまでのリアルさで描き上げている。

それゆえに読者を選ぶこととなるだろうが、この類の話が嫌いな読者をも一気読みさせてしまう程の迫力をもった作品だ。

特に本作の4分の3以上(312ページのうち240ページ)を占める田畠清子により語られる部分の、リアリティ溢れる心理描写の妙は、本作のイチバンの読みどころだろう。

反面、終盤の60数ページ、蓼沼陽子と松崎琴美の視点でそれぞれ語られる部分は、そのアンバランスな構成も相余って、私にとっては少々不満の残るエンディングだ。

一言で言えば、そこまでの陰湿ながらもリアル感溢れる世界から、一気にリアル感のない、謂わば作り話的なものに変質してしまうのである。

小説なのだから作り話なのは当たり前だが、前半の素晴らしさを台無しにしてしまってる感が、あまりにも勿体ない。

そういった意味で、本作をミステリー仕立てにしてしまったところに、根本的な問題があるのではないだろうか。

清子視点部分の240ページをそのままに、前半のリアル感と緊張感を失わない形で、また別のエンディングを迎えられたら、きっとそれは素晴らしく、かつ迫力のある小説になったに違いない.......惜しい (´・ω・`)


(間違ったことを書いているとは全く思わないが、最近やや本の読み方がひねくれているかな......とは思う。 もう少し素直な読み方を心掛けよう。)

【読書記録】匿名者のためのスピカ(島本理生)......う~ん......意気込みは買うが、チト惜しい (´・ω・`)

匿名者のためのスピカ

匿名者のためのスピカ

法科大学院生の笠井修吾は同級生の館林景織子に、衝撃の過去を告白される。いまでもその彼らしき人物から執拗なメールが届くと怯える景織子を修吾は守ると誓った。交際を始めた二人だったが幸せな日々は突然終わりを告げる。元彼の高橋が景織子の弟に暴行を働き、彼女を連れ去ったのだ。だが実は、景織子は自ら高橋の車に乗り込んでいた。なぜ彼女はストーカーまがいの男と行動をともにするのか?彼女の真意とは?東京から日本最南端の島・波照間島へ、修吾は彼らを追うが…。著者が初めて挑む極限の恋愛サスペンス!

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ちょうどこの単行本が刊行された頃に、ご本人の以下のツイートが話題になった。

正確には芥川賞候補作となった「夏の裁断」の同賞落選を受けてのツイートだったと記憶しているが、タイミング的に本作の宣伝も多少意識しているだろうことも想像に難くなく、そういった意味では非常に興味深く読んだ作品だ。


結論から言うと、良くも悪くも島本理生がエンタテイメント作品として恋愛サスペンスを書くと、こんな小説になるんだろうなぁ......というイメージどおりの作品だった。

実際、エンタテイメント小説としてよく考えられ、練られたストーリーだったと思うが、その反面、島本理生らしさをサスペンスの世界で表現するには、やや仕掛けが目論見どおり機能しなかったような気がしてならない。

本作については彼女はインタビューで以下の通り述べている。

島本 ミステリーにはすごく関心があったんですけれど、自分にできるだろうかと思っていたんです。でも、実際の事件をベースにした、男女の恋愛とか感情のもつれの話だったらできるかもと思い挑戦しました。ただ、連れ去られた女性を主人公にすると、加害者の男性と二人だけの、シリアスで閉じられた話になってしまう。それよりも俯瞰する視点が欲しかったので、その女の子とつきあっている男の人の視点にしました。それで、探偵役を書いてみたいと思って、それならやはり助手役も要るだろうと(笑)。

芥川賞候補となった『夏の裁断』を越えて、エンターテインメント小説に舵を切っていく「決意」――島本理生(1)|作家と90分|瀧井 朝世|本の話WEB

この探偵役、笠井修吾があまりにも善人過ぎるのだ。

物語の大半が、ある意味愚直である修吾からの「俯瞰する視点」で語られるために、その結果サスペンスものとして求められる「緊張感」とか「不穏さ」が上手く醸し出せていない。

そして結局は、本編ラスト数ページと景織子視点で語られるエピローグで、景織子の心の闇が一気に種明かしのように明かされるのは、やや興ざめ感がなくもない。

読み返せば、それぞれに伏線はそれなりにあるのだが、この手の小説はもっと明示的に伏線を配し、それが緊張感や不穏さを高める役割を果たした方が面白い。

そういった意味では、修吾、景織子、高橋、七澤(引用したインタビューにある助手役)の4人の視点を交互に配しながら緊張感を高めていく構成にした方が、エンタテイメント小説としての面白さの面でも、また島本理生の小説らしさという面でも良かったのではないだろうか?

勿論、彼女がエンタテイメント小説一本に絞って活動するという決意の中で、「シリアスで閉じられた話」を敢えて避けた気持ちは理解できるのだが、今回に関してはその目論見はあまり成功していないと私は感じたのである。


特に彼女のファンというわけではなく、読んだのもこれでまだ8冊目に過ぎないが、若くしてデビューした割には、その後も怯むことなく試行錯誤しながらコンスタントに書き続けるその姿勢はとても好感をもって見てきた。

今後エンタテイメントに絞って活動されるというその決意の潔さに敬意を表して、次作以降しばらくは重点的にフォローさせて頂きたいと思う。

【読書記録】屋上のウインドノーツ(額賀澪)......絶賛売出し中の若手新人の佳作

屋上のウインドノーツ

屋上のウインドノーツ

 

   Kindle版 ⇒ 屋上のウインドノーツ (文春e-book)

 

ストレートど真ん中の青春小説。

感情や言葉を上手に切り抜いて、それをわかり易く、面白く、時に感動的に配して表現する技は、若さを感じさせない手練れ感と安定感があって、生きのいい新人が出てきたな......というのが第一印象。

1990年生れの額賀澪は、2015年の第22回松本清張賞を本作で受賞し、同年に第16回小学館文庫小説賞を受賞した「ヒトリコ」を本作と同日発売している。

本書の文藝春秋小学館がタッグを組んで話題づくりをして、若手新人を大いに売り込もうという分かりやすい「あざとさ」がほとばしっていて(笑)、その後も両社から1冊づつ単行本を出している。

ま、本人にとっては大きなチャンスだと思うので、ガンガン書いていい作家に育って欲しい。

本作については、少し厳しいことを言えば、終盤やや物語に勢いがなくなってくのが惜しい。

志音と大志の二人の主人公は最後まで同じ疾走感で走り切らせた方が、この物語は生きたのではないだろうか?

これは構成力の問題で、冒頭に評価した表現力に比し、構成力はまだ伸び代があると言わざるを得ない。

あと主人公たちに恋愛を絡ませるか
否か......これは恐らく作者は確信してこのような選択をしたのだろうが、わたし的にはそうでない選択の方が良かったような気がする。

何れにしても(繰り返しになるが)ガンガン書くことによって、まだまだ伸びる作家だと思うので、是非とも頑張って欲しいと思う。

【読書記録】大川契り(西條奈加)......時代ドラマの復権を願う

大川契り: 善人長屋

大川契り: 善人長屋

Kindle版 ⇒ [asin:B01ER62RHQ:title]

西條奈加の「善人長屋シリーズ」第三弾。

氏のシリーズ物は他に、SFファンタジー系時代小説の「金春屋シリーズ」、現代市井軽ミステリー小説(勝手に造語w)の「神楽坂日記シリーズ」があるが、いずれもまだ2作づつなので、本格的?人情時代小説の本作が今のところ代表シリーズとなるのだろう。

氏の小説はメインとなる時代小説でも、他のファンタジー系や現代ものでも、キホン市井が舞台の人情ものであり、この分野の若手?では今、質・量ともに第一人者だろう。

本シリーズは、善人長屋と巷でよばれながら、実は一人を除いた住人全員が裏稼業を持つという長屋を舞台とした連作短編で、今回も安定した西條ワールドで、何とも言えない良い味を出している。

特にラスト2編の描き下ろしが、やや重めのトーンながら秀逸だ。

若いころは歴史小説は読んでも時代小説なんて見向きもしなかったのだが、最近は時代小説(特に市井もの)が面白く、西條奈加のほか、葉室麟朝井まかてなどがお気に入りだ。(この両氏は歴史小説に近いものも書くが、それらも面白い)

50も半ばともなると、やはりこういう日本人的人情ばなしに共感を覚えるようになるのだろうか。


はなしは変わるが、TVで時代劇の連続ドラマは消滅したとの記事をどこかでみた。

ここ10年くらいドラマ・バラエティの類は一切観なくなった(アニメはたまに観るw)ので、事実かどうかはわからないし、調べてもいないのだが、それに近い状況であることは想像に難くない。

一方CS放送では、時代劇チャンネルが高齢者を中心にとても人気が高いという話も聞くのだが、これは旧作の再放送がメインなので、結局は新しい番組は作られていないという現状には変わらないだろう。

韓流ドラマでは、嫁が夢中になって観ているのを傍でみていると、時代ものもかなり人気があるようである。

大河ドラマに限っては幕末ものや戦国ものは人気があるようなので、江戸時代を舞台とした時代ものにも、ひとつの文化としてぜひ復権して欲しいと、中年日本人として切に願う。

そういった意味では西條奈加の時代ものは、ストーリー的にも若い人にもウケそうだし、人気のの女優さんとかイケメン俳優を配して連続ドラマ化したら、良い作品になるのではないだろうか。

できれば実現してほしいものである。